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第一回目は、弊社企画ブランド「クルティエ・セレクション」を支える4人のクルティエのひとり、B氏の登場です。

去る3月、2年に1回開催されるブルゴーニュワインの展示会「グラン・ジュール・ド・ブルゴーニュ」に参加して来ました。
期間中、サヴィニー・レ・ボーヌ村の試飲会場近くのカフェにて、改めて彼に話を聞きました。

仲田さんがリチャード・ギアにそっくりだと言い張るこのシブい親父さんは、ブルゴーニュのクルティエの大ボス的存在。百戦錬磨のつわものです。
彼の仕事に対する姿勢は本当に厳しく、いつ会っても緊張します・・。
 

 

 

 

上田(以下U): クルティエになったのはいつですか?

B: 1988年からで、今年で20年目だ。

 

U: クルティエになったきっかけは?

B: それまではあるネゴシアンでカーヴの責任者を務めていたが、独立して自分の腕で勝負してみたいと思った。

 

U: ブルゴーニュには公式に登録しているクルティエは70人くらいだと聞きましたが、クルティエはなろうと思えば誰でも自由になれる?  

B: クルティエはフランス農林水産省が管轄する免許制で、総数がコントロールされている。新しい免許は空きがない限り下りないので、クルティエになりたければ免許所持者から免許を譲り受けるか、買うかするのが一般的だ。しかしいずれの場合でも、免許取得前に既存のクルティエの下で一定期間スタージュ(研修)をしなければならない。既存のクルティエにとっては、将来の商売敵を育てることになるので、スタージュを受け入れない者が多い。なのでクルティエの免許は、息子が親父からもらうというパターンが一番多い。親父の下で研修もするわけだ。

 

U: あなたの場合は?

B: 当時のブルゴーニュワイン業界は不況の真っ只中で、廃業するクルティエも多かった。免許の空きもごろごろあり、簡単にとれた。

 

U: 確かに世代交代で若いクルティエが増えてますよね。

B: 俺は頼まれればスタージュを受け入れ、何人も弟子を育ててきた。しかし、クルティエは甘い仕事ではない。生産者やネゴシアンとの関係を築くのにも時間がかかるし、24時間仕事のことを考えていなければならない。ほとんどのクルティエはそれだけでは食えず、副業を持っているようだ。

 

U: あなたはクルティエ一本で成功したわけですが、成功の秘訣は何だと思いますか?

B: 早く動くことだ。クルティエはスピードが命だと思う。だからしょっちゅうスピード違反で捕まっている。(そのスピードかよ!)

 

U: 主な仕事は、生産者からネゴシアンに、ぶどうやジュース、バルクでの販売を仲介することですか?

B: そうだ。ぶどうの仲介が一番多い。

 

U: 何軒くらいの生産者とコンタクトがあるのですか?

B: きちんと数えたことはないが、500軒くらいだろう。どちらかというと、コート・ド・ボーヌが多い。

 

U: どういったネゴシアンと取引している?

B: 伝統的なメゾンでは、ルイ・ジャド、ブシャール、ドルーアンなどだ。またここ数年、ニコラ・ポテル、アレックス・ガンバール、ルー・デュモン、デュブレールといった新しいネゴシアンとの取引が増えている。

 

U: 新しいネゴシアンは伝統的なメゾンと比べてどうですか?

B: みんな真面目だし、ワインもうまい。品質と価格に対する要求もかなり厳しく、こちらもやりがいがある。それに、みんな支払いがきちんとしているのが何よりだ(笑)。

 

U: 仲田さんは日本人だし、ガンバールやデュブレールはアメリカ人、ミスチーフ&メイハムはイギリス人とオーストラリア人、というように、新しいネゴシアンは国籍豊かですよね。

B: ここは閉鎖的なところだから、みんないろいろと苦労しているようだ。でもだからこそいい仕事ができるのかもしれない。ワインの品質にとっては、国籍は関係ない。

 

U: 最近の価格動向について訊かせてください。ブルゴーニュワインの価格はここ数年でものすごく高騰していますよね。

B: ネゴシアンの買い付け需要が高まっていることが原因だ。結果BIVB(ブルゴーニュワイン委員会)の公式ぶどう価格がハネ上がり、それに一部のドメーヌが追随している。それと、インフレでカートンとか輸送費とかが上昇しているのもコストアップ要因になっているようだ。

 

U: 従来のワイン消費国に加えて、ロシアなど新興国のワイン消費も伸びていると聞きますが、やはりネゴシアンの販売力はすごいということでしょうね。

B: ただ販売が拡大するだけなら皆ハッピーだろうが、問題はぶどうの量に限りがあることだ。特にコート・ド・ニュイのぶどうの価格の上がり方は、過去に見たこともない異常なものだ。

 

U: クルティエは価格の変動を日々肌で感じてるし、毎日いろいろな情報が入ると思いますが、今後も価格は上がり続けると思いますか?

B: 消費国の動向についてはよく分からないが、ここでは皆、価格が異常だ、異常だ、と言っている。現場の本人達がそう言っているのだから、こんな状況が長く続くはずはないと思える。

 

U: クルティエは仲介手数料で稼いでいるわけで、ぶどうやワインの価格が上がるほうがあなたにとっては正直よいのでは?

B: 原理としてはそうだが、取引が成立しないことも増えたし、価格交渉に巻き込まれることも多くなった。クルティエにとっても、価格の安定が一番だ。

 

U: お世話になっている「クルティエ・セレクション」について改めてうかがいます。生産者のワイン在庫をシュル・ピル(ラベルを貼らないビン販売)でオファーしてもらっていますが、こちらの希望もあって、中でも特にコスト・パフォーマンスの高いものを紹介してもらっています。中には今の各アペラシオンの標準的な蔵出し価格水準からは考えられないほど安いものもあります。

私も特にコート・ド・ニュイとコート・ド・ボーヌについては、ほとんどすべての生産者の蔵出し価格を一応把握しているつもりなのですが、こんな安い価格は見たことがなく、正直驚いています。これってやっぱり、同じブルゴーニュ人同士、というか、クルティエと生産者の特別なつながりから出てくる特別価格ということなんでしょうか?

B: ウィ・エ・ノン。まず頭に入れておかなければならないのは、価格は常に変動するということだ。お前が持っている各生産者の価格表は、それをもらった一時点での価格にすぎない。すべての生産者には個別の事情がある。

所蔵する在庫を安く販売する背景にあるのは、

タンクなどの設備投資をしたとかでいわゆる資金繰りの問題が出た、

所有畑面積が大きくもともと大量に自社ビン詰めしている、

あるいはある年だけ思い切って自社ビン詰めを増やしたがそこまではスムーズに販売できなかった、

毎年買っていた大口のインポーターがなんらかの事情で急に買わなくなった、

世界市況の悪化、などだ。

それから近年増えているのは、生産者に後継者がいなくて廃業を決め、残っている在庫を安く処分するというパターンだ。

そういった個々の事情をすべて把握して、タイミングを捉えるのが俺の仕事だ。

 

U: 以前お話をうかがった時は、2005年ヴィンテージの異常人気も原因になったとおっしゃってました。

B: そうだ。数年前までの不況で、ただでさえスローペースで販売していた多くの生産者が、特にアメリカから2005年だけの注文が殺到したためにさらにペースを狂わされ、バックヴィンテージが残った。

 

U: このような掘り出し物はまだまだ出てくると期待していいですか?

B: まだまだあるが、いつも言ってるように、お前が求める価格帯のものは本当に厳しい。俺はあと数年で引退の身だ。あまり無茶言うな。

 

U: すみません・・・。でもそこをなんとか、よろしくお願いします。

B: まだ出てくるとすればコート・ド・ボーヌの赤だろう。生産者が、安い価格で販売したいと思いはじめるタイミングを俺がいかに素早くとらえ、お前が購入を即決できるかどうかが鍵だ。

U: がんばります・・・。

B: 実は家内が日本に行きたいと言っていて、苦労ばかりかけたしなんとか連れていってやりたいと思っている。頑張ってワインを探すので、その時は日本をいろいろ案内して欲しい。

U: 喜んで!

 

後記: 彼はブルゴーニュでは数少なくなった、昔ながらのクルティエです。毎日毎日生産者を訪問してコツコツと関係を築き、生産者が在庫を安く販売したいと思ったら、安いまま紹介し、その代わりある程度のロットをまとめてあげる。あまりにもロットが大き過ぎるときは交渉になりますが、基本的には気持ちよく取引できる相手です。売り手良し、買い手良し、自分良しのクルティエ版「三方良し」を実践していると思います。これに対して、最近の若手のクルティエには、生産者が安く出しても、利益をものすごく乗せて、そのアペラシオンの標準的な価格くらいで案内してくる人が増えてきています。

やっぱりベテランって偉大です。彼に限らず、フランスのワイン業界の親父さんたちは、仕事に取り組む姿勢が職人的に真面目で、尊敬できる人がとても多いです。